ロケレポート Vol.1「分杭峠」
記念すべき第1回目はサラウンドの巨匠、Mick Sawaguchiこと沢口真生氏との、長野県にあるゼロ磁場として有名な分杭峠でのサラウンドキャンプです。
12月のある日、沢口さんより「竹中さん、長野に面白そうなポイントがあるのだけど……一緒にどう?」と、光栄にもお誘いをいただきました。そのポイントとは、長野県南アルプスの山々から成る日本最大の断層「中央構造線」が交差する場所で、「ゼロ磁場地帯」と称する磁気が無い珍しい場所らしく、神経痛や肩こりが治ったり、気持ちが和やかになる等の何やら不思議なパワーを与えてくれるポイントとして、今や観光名所になっているようです。
という訳で、12月12日~14日の2泊3日におよぶ、人の気配が無いこの時期を狙っての計3名(参加者:沢口真生氏、弊社 竹中・大室)による極寒ロケを敢行しました。
<<一日目>>
この分杭峠は標高1410mの高所に位置し、近辺には民家はもちろん宿泊施設などありませんので、当社所有のサラウンド収録の為のキャンピング仕様車「Surround-Effect号」の出番です。とは言え、普段は雪が降るこの時期と、オマケに対向車も通れない程の細く急激な山道を、この重い車体で登るのは非常に大変です。敵は天候のただ1点!と願を掛け……後は運を天にまかせ、朝から “いざ出陣”……。
幸運にも、この日は天気も穏やかで雪どころかポカポカの暖かい日となり、午後の3時過ぎには無事、現地に到着しました。
初日は時間も時間だけに、ロケハンをメインに現地の散策です。その結果、更に上の標高1500m程の進入禁止地帯でベースキャンプ地を発見!(収録の天敵である、車や人の気配が無いこの場所に一同皆満足です!)さっそく、荷おろしと夕食の準備に取り掛かり、とりあえず何とか格好がついた時には、既に夜の7時を回っておりました。辺りは車1台も通らない超静音地帯で真っ暗です。何はともあれ、とりあえず「乾杯!!!!」。
初日の夕食は焼肉です。炭火を熾すのに一苦労しましたが、何とか、そこそこの食事となりました。ただ、さすがに焼肉を車内で焼くと煙がまん延して、暫くは肉の匂いが消えませんでした。
その夜はサラウンド談議で盛り上がり過ぎたか、いささか酒の呑み過ぎかもしれません。程好い気分となったところで就寝です。
<<二日目>>
2日目の朝です。
この日も運良く、穏やかな天気に恵まれ、多少は曇っていたものの気温はさほど寒くもなく、先ずは朝食の前に1本目の収録に機材を担いで出発です。
手始めに一本目は、分杭峠入り口から少し離れた場所にある小さな丘の上。道の無い急斜面を 100m ほど登った所にて収録です。この日は朝から風が吹いており、辺りの山々から沿ったように移動する OFF の風音とクマザサの揺れを SHOT してみました。
沢口さんのセッティングはフロント側を狭め / リア側を広めに取りながら各々のマイクを少し上向きに設定しています。当方は均等に60度角で水平の設定です。実際の収録した音は風をモロに受けてかなり吹きぎみでしたが、後の150HzのHPF処理でこのようなサウンドとなりました。
<<木枯らし (オンマイク)>>
木枯らし(オンマイク)
引き続きポイントを変えながら、2時間程で数本を収録することが出来たので、一旦ベースキャンプ地へ戻って朝食兼昼食です。
(他の音の試聴はワード検索で直接「分杭峠」と入力すると、一覧表示されます。)
このポイントは遠くの風のうねりが騒音のように聞こえイマイチでしたが、まあまあ冬の寒々しさは表現出来たのではと納得しつつも、やはり風の雰囲気を収録するのは非常に難しいと改めて痛感です!
それにしても今回、沢口さんと同行してビックリしたのが、とにかくタフなんです。ご自分の機材を全て担いで急激な斜面をドンドン登って行くのですが、その足取りは我々も付いて行くのにやっとです。
午後からはベースキャンプ地より更に 200m 程上の小さな山に登る事にしました。道も無い急斜面の連続と、その上、途中は伐採された樹木が妨げとなりましたが、何とか録れそうな場所に到着です。この場所は午後からもそこそこの風が吹いており、午前の場所に比べて良い結果が得られるのではないかと、期待を膨らませながらの SHOT です。
<<クマザサ (オンマイク)>>
クマザサ(オンマイク)
やはり山の頂上付近のためか風当たりは非常に強く、特にフカれに弱いSCHOEPSで果たしてどうかと半信半疑でしたが、何とかHPFで処理できる程度だった為、マイクを変更せずにポイントを変えながらSHOTを継続しました。
収録も順調に進んでいた時、思わぬトラブルが発生です。当方のレコーダー:PDR2000が急に止まってしまったのです。ハードディスクがスピードダウンしてプロジェクトエラーになってしまいました。今まで頻繁に使用した中で初めての症状です。
原因はサッパリで見当も付かないまま、取り急ぎ、交換用のハードディスクと、予備のレコーダーのR44を取りに一人だけ山を降りてベースキャンプまで戻ったのですが、再び収録場所へ戻った時には殆ど風が止んでいる状況でした。困った事にこのような静穏な場所で風が無いと、録音の対象がほとんど無く、ここらで下山と相成りました。
それにしても何故ハードディスクエラーが起こったのか?・・・・・
後で気付いたのですが、確かに、この辺り一帯はゼロ磁場地帯です。具体的には実際の収録場所の数値が何ガウスほど有るのかも解りませんが、当方の感性では、いわゆる「気」と言うものを体で感じる事が出来ませんでした。しかし、「もしかして、たまたまレコーダーを置いた場所に何らかの磁力の変化が起きていたのでは」・・・と考えると合点がつきますが、未だにナゾです。そもそも本企画であるゼロ磁場でのサラウンドロケがどの様な効果をもたらすのかも解らないまま決行したのも、「百聞は一見に如かず」の好奇心によるものです。なぜか沢口さんに同行させていただくと、常に前向きな考え方になるから不思議です。
さて、風も止んでしまい、下山してからは夜まで多少の時間が空いておりましたので、観光名所のスポット付近を散策です。と言うのも、本当の磁場がゼロのポイントとは、観光客がよく訪れる場所から離れた場所に存在するらしいのです。収録は明日の早朝からの予定にして、その磁場ゼロのポイント探しとロケハンを兼ねて、ネットでの写真情報を頼りに沢の奥深くまで、道無き道を歩き回りましたが、なかなか見つかりません。アッと言う間に日が暮れてきてしまい、すべては明日の早朝から再チャレンジとし、一旦、ベースキャンプへ戻りました。
夜になってからは、ベースキャンプ地の20~40メートルほどの真下に、2~3方向から流れる小川のせせらぎをじっくりとSHOTする予定です。我々は夕食の準備の前にさっそくマイクセッティングに入りました。今回は深夜録音のため、50mのマルチケーブルを這わせ、車の中でじっくりと録る事にしました。沢口さんは長年の経験を生かし、水の流れが重く、低音が強く感じたのか、要所要所のポイントをならしてベストの水音になるよう上手く手を加えるのです。(思わず、さすがは匠の技……! と、感心させられます)
沢口さんのは小川の流れをオンマイクでセッティングされたのですが、やはりここでも長年の経験により、マイクの角度を水の流れに沿うようにアレンジされました。一方、当方は沢口さんのアドバイスを基に、そこよりやや後ろのポイントでのセッティングです。とりあえず準備万端にして、後は深夜特有のヒンヤリとした、純粋な水音だけの「せせらぎ」になるのを期待しながら、夕食の準備です。
2日目の夕食は「鶏つくね&蟹の鍋」です。当初は車内で食べようと考えていたのですが、沢口さんがなにやら、周辺から大きな石や枯れ木をかき集めてきて、テーブル脇に簡易暖炉を作ってしまいました。沢口さん曰く「今日はそこそこ暖かいので外で食べよう!」確かにテーブル脇に炭火があるだけで暖かくなるから不思議です。とは言え、外はおそらく氷点下近くの気温だと思います。鍋と熱燗と焚き火のお陰でこの日の晩もサラウンド談議に盛り上がり、約2時間程の楽しい夕食となりました。
さあ、食事も終り、夕方にセッティングしてあった夜の「せせらぎ」をSHOTです。我々は車の中からレコーダーを回すだけのラクチン収録です。それにしても、この時間になると風はまったくの無風で、辺りは真っ暗です。聞こえてくるのは、シーンと張りつめた空気の中から流れる水の音だけです。思わず沢口さんも「贅沢なロケだよ!」と、満足げです。この音だけでも、苦労した甲斐があったような、とにかく純粋なサウンドでした。
<<Sawaguchi Shot>>
沢(Sawaguchi Shot)
<<Arky Shot >>
沢(Arky Shot)
※上記2つの音声は、一切の加工をしていない、録音した素のままの音声を掲載しています。
我々は若干、ポイントを変えましたが、30分以上回し終えて、納得したので今日の録音はすべて終了です。
翌朝は早めに起きて、夕方に下見をした観光スポット周辺を攻めてみる事にして、この日は就寝となりました。
<<最終日>>
ほろ酔い気分で寝静まった、夜中の4時前でしょうか、思わず起きたら大事件です!
この日は深夜からの冷え込みがきつく、車内でも寒く感じていたのですが、外の様子を見たら一面、真っ白の雪。既に5cm位は積もっていました。そのため我々は急遽、予定を変更して撤収作業に掛かりました。何故ならば、当方のキャンピングカーのタイヤはスタッドレスですが、特殊なタイヤのため適合するチェーンが無いのです。もし、このまま冷え込んで路面が凍結すると、この辺り一帯は間もなく通行止めになる場所なので、来年の春までは車で下山する事が出来ません。何はともあれ、急いで荷物とゴミを積み込むだけ詰め込み、朝の5時に時速5km の超低速運転での下山となりました。何とかスリップ事故も無く、無事に山を降りる事が出来ましたが、以降の高速でも場所によっては路面が凍結し始めており、引き続き運転には十分注意しながら昼過ぎに無事、危機一髪の帰還と相成りました。
今回のロケでは、数こそ少ない収録となりましたが、この冬場ならではの静穏地帯で、寒々しい貴重な音を収録出来たのではないかと思います。沢口さんに同行させていただき、改めて「自然との向き合い方」の大事さを感じさせられる貴重な体験となりました。今回の企画は沢口さんからの呼びかけから始まったもので、巨匠には感謝_感謝の気持ちです。
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