ロケレポート Vol.2「熊野古道」

山に囲まれ、自然の多く残る熊野

山に囲まれ、自然の多く残る熊野

サラウンドキャンプ第2回目は、世界遺産に登録された熊野近辺を、約1週間に亘っての長期ロケです。

本企画はサラウンド寺子屋の塾長である沢口真生氏と、そのメンバーでもある毎日放送技術部長の入交英雄氏の両者による話合いが出発点でした。
塾長である沢口さんは、サラウンドサウンド界で幅広く活躍されており、このブログをご覧の皆様には、ご紹介の必要は無いと思いますので、入交さんだけ簡単にご紹介します。現在、大阪の毎日放送の送出部専任部長として活躍されており、ズバリ放送のスペシャリストでありながら一方で個人的にサラウンドによるクラシック録音作品の普及のために情熱的に取り組んでおられる方で、最近では話題となったSA-CD「プラネットアース」を制作された事で有名です。現在、入交さんは奈良県生駒市にお住まいで、熊野近辺は隅々まで熟知されていることから、沢口さんにガイド役を買って出た事で本企画が実現しました。

今回のロケも大変光栄な事に沢口さんから、「Arkyも一緒にどう?」とお誘いを頂き、二つ返事で参加させて頂く事になりましたが、お話を頂いた当初は嬉しさが先行しながらも、内心は入交さんのガイド役と沢口さんに同行するダブルプレッシャーの方が大きく、尻込みしそうな重圧感でした。とは言え、こんな貴重な経験は2度と無いかも知れないと思い、興奮冷め止らぬまま、6月1日~6月6日に掛けて、メンバーは沢口さん・入交さんのスペシャリストのお二人とArkyからは私、竹中と星野の計4名による長期ロケがスタートしました。


<<一日目>>

出発日は沢口さん宅に朝の5時30分集合です。奈良県の入交さん宅でPM2時に待合せ合流する為、早朝ながら東名高速を車で走らせます。前日の天候は雨、当日も出発時にはやや曇り気味の空模様でしたが、西へと向かう内にみるみる青々とした空が広がり、富士川SAにて朝食を摂った頃にはすっかり快晴となっていました。結局気温は30度近くまで上がり、出発日としては申し分のない好天候。嬉しい汗をかきつつ、特に大きな渋滞等に巻き込まれることもなく、無事予定通りの時刻に入交さん宅に到着です。

実はここまでの道中は、前回のロケでも活躍したキャンピング仕様車「Surround-Effect号」でのドライブでした。しかし、狭い山道を小回りの利かないこの車で行くのは少々不安だった為、大変恐縮ながら、ここからは入交さん御所有のSUVにお世話になります。早速機材や荷物を積み替え、いざ、熊野へ出発です。入交さんに運転までして頂きつつ、街中から田園風景を越えてしばらく行くと、周りはすっかり熊野の山々に囲まれています。曲がりくねった山道を走り、夕方頃には、最初の宿がある洞川(どろがわ)温泉へと無事到着しました。

洞川温泉(Google Map)

この洞川温泉は、修験者の聖地といわれる大峯山の登山口にあたる地で、宿場としての歴史も非常に古いそうです。入交さんのお話では、今回泊まった旅館も室町時代から続くという由緒正しい宿との事。到着早々、明日の計画を確認した後は、温泉につかり、夕食のお膳に舌鼓を打ち、酒席を囲んでのサラウンド談義に明け暮れ、初日の夜は更けていきました。

洞川温泉の旅館街

洞川温泉の旅館街

夕食のお座敷で記念撮影(後列右から沢口さん、入交さん、前列当社の竹中、星野)

夕食のお座敷で記念撮影(後列右から沢口さん、入交さん、前列当社の竹中、星野)


<<二日目>>

二日目からはいよいよSHOOTの開始です!

今回のロケは、長期の上、険しい山奥まで歩いての移動が多い事から、持参する機材は出来るだけ軽量かつコンパクトな装備で望みたいと考えた結果、IRTクロス方式の4ch録音をメインマイクと致しました。

SCHOEPS-CCM41×4、IRTクロス(専用のクロスバーにより、スーパーカーディオイド仕様の各マイクのピックアップ部が均等に14cm間隔に保たれています

SCHOEPS-CCM41×4、IRTクロス(専用のクロスバーにより、スーパーカーディオイド仕様の各マイクのピックアップ部が均等に14cm間隔に保たれています

しかし、当方所有のショップス製クロスバーではマイクを装着した際のウインドスクリーンが存在しません。道なき林の中をマイクむき出しでは、マイク保護の観点からも不安ですし、なによりフカレに弱いショップスですから、暴風対策も兼ねたウインドスクリーンは必須です。結局、オリジナルで工作するしか方法がなく、試行錯誤の結果、写真の通り100円ショップで売っているザルとウレタンを加工して作りました。

また、前回の分杭峠のサラウンドキャンプで痛感したのが、三脚はしっかりした物が絶対に必要だという事です。所有のビデオ用三脚は重いですが、アタッチメントは非常に楽ですし、1ショットに10分もレコーダーを回す事が通常のフィールド録音では安定感が一番です。また、山々を歩いて汗ばんだ体にはハエが寄り付いて、人間がマイクの傍にいると「ブンブン」という音を拾ってしまいますが、そういう時でも安心して、離れた位置からレコーダーを回すことが出来ます。今回のロケではほぼ、三脚にマイクを設置して立てておき、当方は遠くからじっと見守るというスタイルで行いました。

さて、この日は朝の五時起床、朝食前に周辺のロケハンも兼ねつつ、機材を担いで近くの山を探索です。早朝ならではの澄んだ鳥の声を期待しての山登りですが、ここでもやはりタフな沢口さん。上り下りの悪路も意に介さず力強く踏みしめていきます。かたや入交さんも、放送局での数々のロケで、山には慣れておられ、その足取りの速いこと速いこと…当社スタッフは、なんとかついて歩いているという状態です。

しかし、川に沿うように発達した旅館街、少し離れたくらいでは、流れる渓流の音が予想外に目立ちます。なかなか良いロケーションが決まらず…結局一発目は、逆に河を活かした、高さ100m程のつり橋上からのSHOTとなりました。丁度河の水音が真下にくる場所に陣取り、沢口さんはここでは弊社所有のSanken-CUW180×2のシステム、フロント90度、リア120度にセッティングされ、当方はSCHOEPS-CCM41×4、IRTクロス方式のシステムに弊社特製の風防を取り付けての収録です。フカれに弱いSCHOEPSですが、独自に開発した取り外し可能な二重構造の風防を用いて、こうした風の気になる場所でもフレキシブルに対応できました。

風の強い場所では、このカバーを取り付け、二重にします

風の強い場所では、このカバーを取り付け、二重にします

<<渓流 (オンマイク)>>


渓流(オンマイク)

(他の音の試聴はワード検索で直接「熊野」と入力すると、一覧表示されます。)

さらに良いポイントを探して二時間程山歩きをするも、日も上りきり、町が活動を始めてやや騒がしくなってきたので、朝一の収録はここまでで切り上げとしました。 宿に戻って朝食を済ませ、荷物を車に積み込み、再び次なる目的地へと出発です。

実はここでお世話になった旅館のご主人、かなりのオーディオファン、マニアだそうで。談話室に設置してある音響設備がとても素人とは思えない品揃え。目ざとく発見した沢口さんが問いかけると、ご主人の趣味であるという事が判明し、思いがけず話に花が咲いたのです。ひょんなきっかけではありますが、お互いに意気投合、友好を築かれました。人との繋がりを大切にし、いつでも出会いのチャンスを逃さない巨匠の姿勢に、我々も学ぶところ大です。

この日の大まかな計画は、洞川温泉から、今宵の宿がある上湯温泉目指して南下しつつ、めぼしいところでマイクを立てようというものです。手始めに、宿場からそう離れていないところにある、五代松鍾乳洞に向かいました。ここは県の天然記念物に指定されている鍾乳洞との事で、案内の方がつき、しかも中は全くの無音…。機材を担いで突入したものの、レコーダーの電源を入れることは無く、鍾乳石のおりなす奇景と、ガイドさんのお話を楽しんで素直に出てまいりました。

鍾乳洞内部、不思議な色にライトアップされています

鍾乳洞内部、不思議な色にライトアップされています

観光気分も味わったところで、ここからはひたすら山道をドライブです。窓を全開にして、途中途中で車を止め、音の雰囲気を確かめつつ走ります。求めている音は、やはり鳥の声や林の木々のざわめきなのですが、至る所に流れる渓流や車の騒音などからそう間単には逃れられません。しばらく車から降りることなく、国道から逸れて、高野辻という林道をひたすら登ります。

ちょうど昼頃になり、標高にして1100m程まで登ったあたりに見晴らしの良い開けた場所がありました。ここまでくると、さすがに静かです。たまに鳴く鳥の声以外、ほとんど音がしません。加えて、非常に景観の良いところで、ここ熊野で世界遺産に登録された道の一つ、「大峯奥駈道」の通る大峯山脈が見事に一望できました。しばし仕事を忘れて、一同景色を堪能します。こうした自然を楽しみながらのロケというのは本当に贅沢なものです。

高野辻のビューポイントからの絶景!

高野辻のビューポイントからの絶景!

気持ちよい空気を吸いつつ、いよいよ近くの茂みで鳴いているウグイスにマイクを向けます。

<<うぐいす (オフマイク)>>


うぐいす(オフマイク)

のんびりレコーダーを回していると、丁度お昼時だったせいか、一組の老夫婦がやってきて一角に陣取り、なにやらバーベキューの準備を始め出しました。景色の良いところでハイキング、なんて思ったのでしょう…。止めてくれ、とも言えないので、我々は入れ替わりで撤収です。

こうした障害は、小規模編成でのロケには付き物です。人間が一人も来ない場所というのはなかなか無いもので、どこに行っても多かれ少なかれ悩まされます。せめてそっとしておいてくれれば良いのですが、マイクを構えていると、人は遠ざかるどころかむしろ近寄ってきて、何録ってるの、と話しかけてくれます。そのため、こうして山奥まで来たり、早朝などの時間帯を狙うのですが、やはりなかなか完全に人間の匂いを消すのは難しいようです。それでも、さすがにはるばる熊野まで来た甲斐あって、今回のロケではそうした問題に煩わされることは少なかったといえるでしょう。

急な斜面にマイクをセットする沢口さん

急な斜面にマイクをセットする沢口さん

さて、見晴らし台での収録は程々で切り上げましたが、この辺りでまだまだ良い音が録れそうです。少し下りたところの茂みを分け入って進み、やや開けた場所を見付け、やはりウグイスの声を狙って一本回しました。さらにポイントを探そうと車に戻ると、沢口さんが、ここまで登ってくる途中に一つ気になる場所があったとおっしゃいます。行ってみると、小さい水路のようなものがあり、垂直な壁を、水が薄く平行に流れ落ちています。確かにおっしゃるとおり、涼しげな、なんとも面白い音がしているではありませんか。早速SHOOTということになり、機材を抱えて近づいてみます。人間が立ち入るようにはできていないところも、沢口さんは難なく滝の目の前まで下り、オンマイクでの収録です。当方もその横に位置取り、同じくオンマイクでのSHOTです。沢口さんはさらに、マイクをさかさまにして、足元を流れる水の真上まで近づけてのSHOTも試されました。

滝を狙う沢口さんと、当社スタッフ星野

滝を狙う沢口さんと、当社スタッフ星野

<<小さな滝>>


小さな滝

満足のいくSHOTも録れたので、ぼちぼちこの峠を後にし、次の目的地へと移動します。国道へと戻り、さらに南下すると、谷瀬のつり橋というちょっとした度胸試し(?)のような観光名所があります。録音に夢中で、昼食をとっていなかったため、ここらで少し遅めの昼をとることとしました。

谷瀬の吊り橋(Google Map)

さて、せっかく谷瀬のつり橋まで来たことだし、腹ごなしに少し渡ってみようかという話に当然なります。このつり橋は、297mという、なんと日本一の長さだとか。遠目に見ると、谷間をスーッと糸のようなものが伸びてはいますが、なんとも心細く、沢口さんのお言葉を借りれば、まさしく「お尻のムズムズする」光景。

近づいてみると、危険だから20人以上はいっぺんに渡らないように、などとこちらの不安を煽るような注意書きがあり、さらに見てみると今現在つり橋には明らかに20人以上の地元民や観光客が乗っている…。本当に渡って大丈夫だろうかと思いつつ、意を決して当社竹中を除く三名でつり橋へと足を踏み出します。

足元は木の板が二枚ほど組み合わされているだけ。中央部分はネットで補強してありますが、脇の板を踏み抜いたりしたら、下までまっさかさまなのでは…と身の危険を感じます。また大人数が乗っているせいか揺れもかなり激しく、まともにまっすぐ歩けません。下を見ればクラリとするし、生きた心地もしないまま、どうにか往復渡り終えましたが、見ると沢口さんは「案外大したこと無かった」とケロリとした様子。入交さんも、この橋は初めてではないそうで、平気な顔をされていました。さすが…精神的にもタフなお二人です。

橋を渡る三人

橋を渡る三人

腹もこなしたことだし、もう一つ二つ録って宿へ向かおうか、という時に、当社星野が私物のバッグが無いと騒ぎ始めました。あきれたことに、先ほどの見晴らし台に忘れてきた模様です。沢口さん、入交さんお二人には多大なご迷惑をおかけし、車で再び戻っていただきました。どうにかバッグは紛失せずに置き去りになっていたのを回収しましたが、そうこうしているうちに日も暮れ始め、今日のところはこのまま宿の方へ直行しようという話になりました。

いよいよ上湯温泉の方へ近づくと、野猿という人力ロープウェイのある河原を通ります。なかなか珍しいものなので、入交さんの提案で是非立ち寄ってみようということになり、車を停めました。下りてみれば、周りがなかなか静かな場所。折角なので、ここでも河の音を録ります。

良さそうなポイントを探り、沢口さんは流れの際立っているところを狙ってSHOT、当方は沢口さんのアドバイスに従い、靴を脱いで足を水に浸し、マイクをぎりぎりまで水面に近づけてのSHOTです。

<<川(ゆるやかな流れ)>>


川(ゆるやかな流れ)

かなりのオンマイクで録っただけあって、前後からうまく包み込まれるような音になりました。

これが野猿です

これが野猿です

さて二日目の宿は、上湯温泉というところの、秘湯と呼ばれる宿です。早速秘湯のお湯を頂き、ここでもおいしい夕食を平らげると、再びロケへと出発です。この辺りの河原にはカジカガエルという、綺麗な鳴き声の蛙が生息しているという事で、その音を録りに行きました。

上湯温泉(Google Map)

日は完全に落ち、外灯もほとんどない無い夜は真っ暗闇です。宿の方に先導していただき、河原まで下ると、予想外の光景が…!美しい蛍の群れが舞っているではありませんか。
ゆうに20~30匹はいるであろう、緑色の光の大群です。まさに幻想的、の一言。皆、うっとりとしています。宿の方も、今年は初めて見たとのことで、興奮しておられる模様。当方、これほど間近に蛍を見た経験など無いものですから、非常に感動しました。改めて、なんて贅沢なロケなんだろう、という思いを新たにしたものです。
蛍の光に目を奪われつつ、耳を澄ませてみると、川の音の向こうにホロホロ、と気持ちよい鳴き声が聞こえます。カジカガエルです。なるほど、確かに普通の蛙とは違って、風情を誘う歌声。これは是非録らねばなるまいと、早速機材をセッティングしてレコーダーを回します。眼前には蛍、谷あいに響くカジカガエルの声…実に風流です。残念ながら映像はございませんが、美しいカジカガエルの合唱をお楽しみください。

<<カジカガエル>>


カジカガエル

●上記の音声を、本サイト、生音系フリー音源のコーナーにて公開しました!是非ダウンロードして、ご自由にお楽しみください。

ここはじっくり、腰を据えて回したテイクです。ポイントを変えてもう一テイク、これまたじっくり録った後、川岸にある露天風呂で蛍見温泉と洒落込み、良い気分のまま、本日のSHOOTはこれにて終了となりました。


<<三日目>>

この日も朝食前に、鳥のさえずりを狙ってSHOOTに出かけます。前日の晩も焼酎片手に夜更けまで楽しみましたが、今朝は五時頃に起床して、宿の裏山を探索です。
しかし、やはりこの辺りも河が非常に近く、綺麗に鳥の声を狙おうと思うとどうしても邪魔になってしまいます。加えて、早朝ながら車の往来が時折あり、なかなか苦しいロケとなりました。それでも、山道をせっせと登り、ようやく河の音が目立たない場所まで来ると、小鳥達の声も谷間に元気に響いています。たまの車は編集でなんとでもできますし、とりあえずここで録音開始です。

<<小鳥のさえずり>>


小鳥のさえずり

一本録り終えたところで、そろそろ町の活動も活発になってくることだし、と一旦宿に戻って朝食をとります。本日の予定は、玉置山を目指して東に向かい、さらに足をのばして海まで出てSHOOTというものです。今日もいい音を録るぞ、と気合を入れ、いざ出発です。

玉置山は、宿のあった上湯温泉、十津川村から程ない距離にあるので、車で一時間少々走ると、もう山頂付近まで到着します。今日はそこから車を降りて、山頂にある玉置神社まで徒歩で向かいます。

玉置山

駐車場から先はすでに玉置神社の境内になっており、本殿まで大体1km程度の道のりです。車両進入禁止の林道には、至る所に、相当に古そうな杉の大木が見られます。この一帯の杉は県の天然記念物にも指定されているそうで、確かにとても立派。最も古いもので、樹齢3000年という杉もあるそうです。

機材を抱えて、山道をいきます。

機材を抱えて、山道をいきます。

標高は1000m近く、渓流の音などはほぼ聞こえません。鳥の鳴き声が下の方から、心地よい残響を含んで聞こえ、なかなか良い場所です。特に鳥の声がうまく響くポイントを探し、狭い林道を占領しつつ、谷へマイクを向けます。真後ろがすぐに切り立った斜面になっているのが少々難ですが、人の気配もほとんどなく、冷んやりとした静けさの中に、湿ったような鳥の鳴き声だけが響きます。これにもう少し風が吹いて、木々のざわめきの音が録れれば完璧だったのですが、なかなかそうは上手くいきません。沢口さんも、「あとは風だな」と、ここでの鳥のSHOTにはご満悦の様子です。

沢口システム(マイク:SANKEN-CUW180×2 レコーダー:SONOSAX SX-R4)

沢口システム(マイク:SANKEN-CUW180×2 レコーダー:SONOSAX SX-R4)

Arkyシステム (マイク:SCHOEPS-CCM41×4 レコーダー:Roland R-4)

Arkyシステム (マイク:SCHOEPS-CCM41×4 レコーダー:Roland R-4)

ポイントを変えて2,3テイク回したのですが、最後のテイクで突然、聞いた事のない珍しい鳥の鳴き声を拾いました。なかなか近くで鳴いており、トンビに似た雰囲気の声ではあるのですが、こちらは段々ピッチが下がっていくという特徴があります。当方、野鳥の生態にはいささか勉強不足で、一体なんという種類の鳥なのか、見当がつきません。是非下記の音源をご試聴くださり、もしご存知の方がいらっしゃいましたら、コメント欄等にてご教授いただけますと幸いです。

<<山鳥>>


山鳥

●上記の音声を、本サイト、生音系フリー音源のコーナーにて公開しました!是非ダウンロードして、ご自由にお楽しみください。

途中途中でレコーダーを回しつつ、一時間程も歩くと玉置神社の本殿へと到着しました。当社に伝わる話によれば、ここはなんと紀元前に創建された神社だとか…。また、入交さんのお話では、ここが熊野三山といわれる熊野の三大神社の奥の院だったのではないかという事で、確かにその古びた佇まいに、杉の巨樹にも似た重々しい威厳を感じずにはいられません。しばらくここに留まり、お参りなどした後、再び車へと戻ります。

玉置神社の威容

玉置神社の威容

ここからは熊野灘、七里御浜へ向かいます。山にこもったここ二、三日から、一気に海へ…。入交さんに教えて頂くと、七里御浜は、日本でも珍しい砂浜ではない砂利の浜ということ。当然、普通の砂浜とはサウンドも変わります。沢口さんも砂利浜での波音には興味がお有りだったそうで、どんな音がするのかと、一同期待に胸が膨らみます。

途中、先述の熊野三山のひとつでもある熊野本宮大社にも寄り、昼食をとりつつ、ひたすら東へ向かい、14時くらいには新宮市内に入りました。新宮は海に面した町で、ここから北に向かって、おそらく20kmほどは続く浜が七里御浜です。

しかし、ここからのポイント探しがなかなか大変でした。この辺りはすっかり街中で、車の通行量も多く、丁度浜にぴったり寄り沿って熊野街道が走っています。なにか車の騒音を妨げてくれる、防砂林のようなものがある場所が良いのですが、なかなかうってつけのロケーションが見つかりません。また、七里御浜も全てが砂利浜というわけではなく、砂浜の部分も多そうです。

結局なかなか車を降りることなく、北端にあたる鬼ヶ城のあたりまで行くと、その辺りは一面が砂利浜になっているのが分かりました。ひとまず様子を見てみると、波打ち際までは案外距離がある模様、しかも丁度その手前で砂丘が落ち込んでいる形になっており、海側から見れば道路の音を遮る良い遮蔽物になっています。また、この浜は完全に外海に面していて波もなかなか高く、耳を圧する音をしています。これは、オンマイクで録れば案外邪魔な音は入らないのでは!?と希望を抱いて、いそいそと機材のセッティングにとりかかります。

七里御浜(Google Map)

ここでは沢口さんと当方は別行動、沢口さんは波音の響きそうな突堤の下辺りへ向かわれ、当方は車道からできるだけ遠ざかった波打ち際へ向かいます。まずはオンマイクから、とギリギリ波がかぶるくらいのところに三脚を立ててのSHOTです。

<<砂利浜>>


砂利浜

砂利浜ならではのサウンドを、お楽しみ頂けたでしょうか。ザバーン!という波音の後に、カラカラ、というかジャーッというか、耳をくすぐる余韻が残るかと思います。
砂浜との音の違いを確かめられたい方は、HOMEに戻っていただいて、ワード検索で「砂浜」等と入力して頂くと一覧表示されますので、ご自由に試聴ください。

入交さんのお話では、この辺りの海は浅瀬が短く、地形的には急にグッと深く落ち込んでいるそうです。そのせいで、波の勢いが意外と強く、時に予想外のところまで押し寄せてきます。当方も、これは油断していると三脚が波にさらわれるな、と思い、なるべく安全なところに設置し、しっかりとケーブルを掴んではいたのですが…自然の力を甘く見ていたのでしょうか。突然強烈な波が襲ってきて、アッと思ったのもつかの間、なんと三脚をその勢いで押し倒してしまったのです。

「…!!」 我々の悲鳴も、轟く波音にかき消されます。最も恐れていた事態が起こってしまった…。

すぐさまマイクを救出しましたが、風防はすでに海水でぐっしょり。取り外してみると、どうやら中まで水は浸入したようです。とりあえず大まかに水を拭き払い、気を取り直して次のテイクを回そうと試みましたが、ゲインを上げていくと、一本だけどうしてもメーターが触れない。モニタリングしてみると、明らかに波音ではない妙な音が聞こえます。ショートしたか、まだ中に水が残っているのか。とにかく、ここではもう音は録れないようです。

仕方ないので、沢口さん、入交さんと合流して、ここは撤収しました。予想外のハプニングに見舞われ、マイクが駄目になってしまいましたし、また案外ゆっくりとしていたのでいつの間にか夕方となっており、今日のSHOOTはここまでとして、次の宿に向かいます。ここからやや西寄りに北上した、上北山村です。

上北山村(Google Map)

少々早めの到着でしたが、早速温泉と御飯を頂き、サァ今夜も酒盛り、と意気込む一同。しかし部屋に戻ってゴロンとすると、旅の疲労が出たのか、皆睡魔に襲われ…そのまま起き上がることができず、今宵は予想外の早めの就寝と相成りました。


<<四日目>>

今回のこの熊野ロケもいよいよ大詰め、四日目を迎えました。たっぷり睡眠をとって英気を養い、気持ちも新たに出発です。 この日の最初の目的地はここから南下したところにある、不動七重の滝です。

大きな地図で見る

それほど離れた距離ではありませんが、近付くにつれて、道の悪さが否応にも増していきます。落石もところどころに見られるようになってきました。いよいよ道が細くなり、今回の旅の中でも最も狭く、急峻だったであろう道を小一時間ほど走ると、滝の近くまで歩いていけるポイントに到着しました。とはいうものの、滝の姿はまだどこにも見えず。あるのは、眼前はるか下方に流れる渓流のみ。まずは、ここを下まで下っていかねばならないようです。

垂直距離にして、100mほどはあったでしょうか。急な石段をどうにか下りきると、河原に到着です。以前はここにかけてあったつり橋で向こう岸まで渡れたようですが、台風で倒壊したらしく、今は見るも無残な姿をさらしています。当然、これは使用できません。どうにか向こう岸に渡るより他に方法がないので、仕方なく、靴を脱いでなるべく河の浅そうなところをじゃぶじゃぶと渡ります。せいぜい10mほどの幅しかないのですが、この河の水の冷たいことといったら…。標高も高いせいか、もう六月なのに真冬の河かと思うような水温です。歯をくいしばって、なんとか機材も濡らさずに渡り終えることができました。

が、本当に大変なのはここからです。とりあえずひたすら河を上っていけば滝に辿り着くようですが、道といえる道はなく、山のように巨大な岩がゴロゴロと転がっているばかり。えらいところへ来てしまった、と一瞬気が遠くなります。しかし、ここまで来て今更引き返すわけにもいきません。機材を担いで、えっちらおっちらと岩山をよじ登ります。

行けども行けども、足元は厳つい岩だらけ。進めば進むほど、道のりはますます険しくなっているような気もしますが、気づけば辺りには人の気配も車の気配も一切なし。周りは林に囲まれた深い渓谷の中を、一心不乱に自然と格闘しております。これが、山のロケの醍醐味か、と疲れた体にも幾分余裕が芽生え始め、なにか妙な気分になってきた当方。人跡未踏の地を行く、沢口探検隊一同。一体この後に何が待ち受けているのか!盛り上がってまいりました。

沢口探検隊の勇姿

沢口探検隊の勇姿

探検気分で一時間弱歩くと、ようやくドドドドッ、と水の落下する音が聞こえ始め、ついに不動の滝の真下まで到着しました。なかなかに感慨深いものがあります。この滝は曲がりくねった流路をしており、ここからでは一番上まで見通せるわけではありませんでしたが、緑豊かな景観とあいまって、どことなく秘境といった雰囲気。しばし休憩の後、いよいよ本日一発目のSHOOTです。

不動七重の滝、真下から

不動七重の滝、真下から

自然の中での水の音というのは、案外うまく録音するのが難しいものです。特に、流れの速い河や、こうした滝の場合、あまり薄く録ると、ただのノイズにしか聞こえなくなってしまうということが良くあります。ここでも沢口さんのアドバイスのもと、滝特有の迫力ある低音を効かせるため、ぎりぎりまで近づいてのオンマイクでの収録です。当方ここからは、マイクを予備で持ってきていたSanken-CUW180×2のシステムに変更しての収録。沢口さんは、水の流れに合わせてマイクの角度をアレンジされてのSHOTでした。

さらに、今度は激しく水の撥ねているポイントに移動し、バシャバシャとした水しぶきをやはりオンでのSHOTです。ここでは、その二つの音源をミックスし、迫力を持たせつつも、水の動く躍動感を表現したサウンドをお聴きいただきたいと思います。

<<滝>>


真剣なまなざしで音をチェックする巨匠

真剣なまなざしで音をチェックする巨匠

入交さんはマイクの代わりにカメラを構えます

入交さんはマイクの代わりにカメラを構えます

この後もしばらく留まり、ポイントを移動して1,2テイク回した後満足、撤収しました。帰りもまた同じ道のりを戻るのですが、実は、河を渡った辺りで、先述の壊れたつり橋の先にもう一つ、かなり古いと思われる木製のつり橋が架かっていました。しかし、完全に壊れていないまでも、ボロボロに朽ちていかにも頼りない風情。誰からも忘れ去られて10年、といった感じで、あまりに危険そうなので往路は渡るのを避けて迂回しました。帰りももちろんそのつもりだったのですが、冒険精神あふれる沢口さんだけは、果敢にもそのつり橋にチャレンジされたのです。我々が固唾をのんで見守るなか、インディ・ジョーンズさながら見事ぐらつく橋を渡ってみせた沢口さん。端で見ていても生きた心地がしませんでしたが、ご当人も今度ばかりはさすがに「お尻がムズムズ」されたそうです。

それでも笑顔の沢口さん

それでも笑顔の沢口さん

我々はおとなしく、冷たい水に顔をしかめつつも河を渡りました。また長い階段を上り、車へと戻った時には、もう昼過ぎです。ここから昨夜の宿をとった上北山村へといったん戻り、そこから今夜の宿であり、この旅の最終目的地でもある大台ケ原へと向かいます。

不動七重の滝、展望台から記念撮影

不動七重の滝、展望台から記念撮影

大台ケ原山は、今回数多く上った山の中でも最も高く、標高は1700m近くあります。我々が向かうのはほぼその山頂。車でひたすら登っていくのですが、途中から雲の中に突入しました。徐々に霧が濃くなり始め、しばらく経つと視界はほぼ真っ白…。ほんの5m先も見渡せないような白一色の空間で、最徐行での運転です。これで、対向車が案外多いから実に危険。しかし、入交さんの確かな安全運転で、無事に山頂まで到着いたしました。

大台ケ原(Google Map)

宿にチェックインして落ち着くと、なんだかんだでもうすっかり夕方です。こうした山荘は夜が早いそうで、間もなく夕食とのこと。ひとまず本日のSHOOTは切り上げ、夕食に風呂にと済ませ、一息入れました。

さてそうなると、今宵こそは昨日の分まで飲まねば、と部屋へ戻って酒盛りが始まります。特にこの晩は盛り上がりました。サラウンド談義から、沢口さんのロケでの数々の武勇伝、珍体験、それこそインディ・ジョーンズ顔負けの冒険譚から、当社星野への有難い訓示まで、話は流れ、夜も更けるほどに興に乗り、気づけば時刻は深夜の2時を回っています。あれ、もうそんな時間か、と一同時を忘れての宴会に後ろ髪を引かれる思いでしたが、明日も早いし仕方ない、と今夜はここでお開きになりました。


<<最終日>>

ついに最終日です。昨夜は夜更かしの深酒ながら、この日も五時起床で、朝一のSHOOTに向かいます。四日目までは晴れ続きでしたが、この日は未明から雨。せっかくだから雨音も狙いたいとは思っていましたが、毎日降られては困ります。そういう意味ではまさにうってつけの雨で、今回のロケは天候にも恵まれた旅といえるでしょう。

それほど強くは降っていませんが、雨用の装備を整え、東大台と呼ばれる区域へ向かいます。しばらく歩くと、徐々に笹が濃く生い茂り、細い樹木が立ち並ぶ鬱蒼とした林となります。ざくざくと分け入り、沢口さんのすすめで、なるべく空の開けたポイントを探してマイクを立てます。ここでは細かい雨が降っていたので、木の真下では、逆に葉から滴る大きな雨粒がマイクに当たり、ボツッとしたノイズが目立つようになってしまうからです。良いポイントを見つけたら、早速SHOT。さすがにS/Nが良いのはもちろん、風もやや強めに吹いており、うまい具合に木々を揺らしてくれます。「欲しい音がいっぺんに来た」と、沢口さんも興奮気味です。

沢口さんは雨の中でも、変わらず精力的です

沢口さんは雨の中でも、変わらず精力的です

ポイントを探り探り移動しつつ、ここでは雨ばかり4テイクほど重ねました。厳選してお届けします。

<<林の雨>>


林の雨

良い音のする場所にいると、なかなか帰れなくなります。この時も少々時間をオーバーして宿に戻り、ぎりぎりで朝食をいただきました。荷物をまとめ、車に積み込み、再びSHOOTへ出発です。この周辺でもう少し粘り、早朝とは反対側へ行ってみるようということになりました。

こちらもやはり鬱蒼とした林となっています。やや雨脚が強まってきており、先程とはまた違った音が録れそうです。ここでも1,2時間じっくりと3テイクほど回します。

沢口さんのアイデアで、木の枝に傘を引っ掛けてのSHOT

沢口さんのアイデアで、木の枝に傘を引っ掛けてのSHOT

最後に雨にも遭遇でき、一同満足のもと、いよいよ帰路に着きます!
途中に最後の秘湯に寄り、長旅の汗を流しつつ、熊野の地を後にしました。案外時間に余裕もあったので、飛鳥に寄って入交さんのガイドのもと観光もさせて頂き、夕方には入交さん宅に到着です。この日はそのまま入交さんのお宅に泊めていただき、奥様お手製のおいしい夕食をご馳走になりました。翌朝再びSurround-Effect号にて東京へ向け出発、夕方五時頃には沢口さん宅へと無事帰還しました。

一週間もの長きにわたるロケでしたが、終わってみれば実に充実した、あっという間の旅でした。普段のロケではなかなか収録できない熊野ならではの自然の音を、たっぷりと時間をかけて収録できた、贅沢なロケだったと思います。それも全て、今回の旅のガイド役を務めてくださり、何から何までお世話していただいた入交さん、そして何より、この貴重なお話に我々もお誘いくださった、沢口さんのご厚意によるものです。お二方には、この場を借りてお礼申し上げます。


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コメント / トラックバック 4 件

  1. Miki より:

    詳しいレポートいつも楽しみにしています。オリジナルのウインドスクリーンが大変参考になりました。ありがとうございます。

  2. admin より:

    コメントを寄せて下さり有り難うございます。
    このようにお褒めのお言葉を頂くと大変、励みになります。
    これからもお互いに頑張って参りましょう!!

  3. きのうち より:

    はじめまして。大阪のきのうちと申します。
    詳細なレポート、大変興味深く拝見させていただきました。

    サスプロを除き、仕事でのサラウンド制作はまだ未経験ですが、大阪で開催されたサラウンド寺子屋に一度だけお邪魔させていただいたことがあります。

    「山鳥」ですが、(私は全然詳しくないんですが)アカショウビンだと思います。5月か6月、奈良県の吉野山の特定の場所にも毎年来るらしいのですが、数日でいなくなるという話を聞きました。私も今年、撮影と録音をしようと(現地の知人からの連絡を)待っているところです。

    サラウンドではなくステレオ収録ですが、ちょうど私も昨日、仕事で吉野山に行くついでに早朝から山に入ってサウンドスケープ収録をしてきました。(AT825+ジャマー、NGS-X3、HD-P2)

    動きやすい体制という事でカゴ1つのAT825とスタンドでしたが、どうもS/Nが…
    いやほんと、サラウンドで録りたいです。

  4. きのうち より:

    アカショウビン(鳴き声も確認できます)
    http://www.miyazaki-archive.jp/d-museum/search/search/detail/?id=289

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